RESTful APIにおけるリソースのリレーション表現:設計パターンとアンチパターン
はじめに
RESTful API設計において、リソース間のリレーションシップをどのように表現するかは、APIの使いやすさ、保守性、そしてパフォーマンスに大きく影響する重要な要素です。データの構造はデータベースなどに格納されている状態と似ていますが、APIとして外部に公開する際には、クライアントの利用目的に合わせた最適な形に整形する必要があります。
特に、複数のリソースが関連し合う複雑なケースでは、「どの情報を、どのように含めて返すか」「関連するリソースへどのようにアクセスできるようにするか」といった設計判断が難しく感じられることがあります。
本記事では、RESTful APIにおけるリソース間のリレーションシップ表現に焦点を当て、代表的な設計パターンとそのメリット・デメリット、そして避けるべきアンチパターンについて、具体的な例を交えながら解説します。
RESTful APIにおけるリソースとリレーションシップ
RESTful APIの基本は「リソース」です。リソースは、URIによって一意に識別される情報の概念的なマッピングです。そして、現実世界のシステムと同様に、これらのリソースは互いに関連し合っています。例えば、「ユーザー」リソースと「投稿」リソースがある場合、あるユーザーが複数の投稿を持つといったリレーションシップが存在します。
RESTの原則では、リソースだけでなく、そのリソースが持つ他のリソースへの「リンク」も重要な要素とされています(HATEOASの一部)。しかし、APIの目的やクライアントの特性によっては、リンクだけでなく、関連するリソースの一部または全体をレスポンスに含める方が効率的な場合もあります。
リソース間のリレーションシップをAPIとして表現する方法はいくつか考えられます。主な方法として、以下の3つの観点から整理できます。
- URLによる表現: リソースのURI構造でリレーションシップを示す方法。
- レスポンスボディによる表現: レスポンスとして返すデータ構造の中でリレーションシップを示す方法。
- 関連データの取得方法: クライアントが関連データをどのように取得できるか(または同時に取得するか)を制御する方法。
これらの方法を組み合わせて、最適なリレーションシップの表現を設計していくことになります。
リソースのリレーションシップ表現パターン
ここでは、具体的なリレーションシップ表現のパターンを見ていきます。例として、「ユーザー (User)」と「投稿 (Post)」という、ユーザーが複数の投稿を持つ「1対多」のリレーションシップを考えます。
1. URLによるリレーションシップ表現
関連リソースへのアクセスパスをURI構造で表現する方法です。
-
ネストされたリソース: 親リソースの下に関連リソースをネストする形式。
- 例:
/users/{user_id}/posts
- メリット: リソース間の階層的な関係が直感的に分かりやすいです。特定のユーザーの投稿一覧を取得するといった、親リソースを起点とした操作に適しています。
- デメリット: リレーションシップが複雑になるとURIが深くなりすぎる可能性があります。親リソースなしに関連リソース(例: 全ての投稿)にアクセスするパスが別に必要になる場合があります。
- 例:
-
クエリパラメータによるフィルタリング: 関連元リソースのIDをクエリパラメータとして指定し、関連先のリストをフィルタリングする形式。
- 例:
/posts?user_id={user_id}
- メリット: URI構造がシンプルになります。複数の条件でフィルタリングする場合(例:
/posts?user_id=123&status=published
)にも拡張しやすいです。関連元のリソースパス(例:/users/{user_id}
)とは独立して関連先リソース(例:/posts
)のリストエンドポイントが存在する場合に適しています。 - デメリット: リソース間の階層的な関係性はURIからは分かりにくくなります。
- 例:
2. レスポンスボディによるリレーションシップ表現
リソースを取得した際のレスポンスデータ構造内で、関連リソースへの情報を含める方法です。
-
参照 (Reference): 関連リソースのIDのみを含める方法。最もシンプルです。
- 例: 投稿リソースに投稿者のユーザーIDを含める。
json { "id": "post-123", "title": "記事タイトル", "body": "記事本文...", "user_id": "user-abc", "created_at": "..." }
- メリット: レスポンスデータが小さくなります。関連リソースが不要なクライアントにとっては最も効率的です。
- デメリット: 関連リソース(この例ではユーザー名など)が必要な場合、クライアントは別途そのリソースを取得するためのAPIコール(例:
/users/user-abc
)を行う必要があります(N+1問題につながる可能性)。
- 例: 投稿リソースに投稿者のユーザーIDを含める。
-
埋め込み (Embedding): 関連リソースの一部または全体をレスポンスボディに含める方法。
- 例: 投稿リソースに投稿者ユーザーの情報を含める。
json { "id": "post-123", "title": "記事タイトル", "body": "記事本文...", "user": { "id": "user-abc", "name": "山田太郎", "profile_image_url": "..." }, "created_at": "..." }
- メリット: クライアントは1回のAPIコールで関連データもまとめて取得できます。クライアント側の実装がシンプルになることが多いです。
- デメリット: レスポンスデータが大きくなる可能性があります。クライアントが関連データを必要としない場合でも無駄なデータ転送が発生します。関連するリソース内でさらに別のリソースが埋め込まれるなど、階層が深くなりすぎるとレスポンス構造が複雑になります。
- 例: 投稿リソースに投稿者ユーザーの情報を含める。
-
リンク (Link): 関連リソースへアクセスするためのURIを含める方法。HATEOASの考え方に沿っています。
- 例: 投稿リソースに投稿者ユーザーへのリンクを含める。
json { "id": "post-123", "title": "記事タイトル", "body": "記事本文...", "user_id": "user-abc", "created_at": "...", "links": [ { "rel": "author", "href": "/users/user-abc" } ] }
- メリット: クライアントはAPIのURI構造を知らなくても、レスポンスに含まれるリンクをたどることで関連リソースにアクセスできます。APIの進化(URI変更など)に対するクライアントの耐性が向上します。
- デメリット: クライアントは関連リソースが必要な場合、別途APIコールが必要です。リンク構造を解釈して利用するためのクライアント側の実装が必要になります。
- 例: 投稿リソースに投稿者ユーザーへのリンクを含める。
3. 関連データの取得方法の制御
クライアントがどの関連データを取得するかを選択できるようにする仕組みです。
-
クエリパラメータによる埋め込み制御: レスポンスにどの関連リソースを埋め込むかをクエリパラメータで指定できるようにする方法。
- 例:
/posts/{id}?_embed=user
または/posts/{id}?_include=user
- メリット: クライアントは必要な関連データだけを効率的に取得できます。APIは複数の利用シナリオに対応しやすくなります。
- デメリット: API設計が少し複雑になります。クライアントは利用可能な埋め込みオプションを知っている必要があります。
- 例:
-
クエリパラメータによるフィールド選択: レスポンスに含めるフィールドをクエリパラメータで指定する方法。関連リソースのフィールド指定にも応用できます。
- 例:
/posts/{id}?_fields=id,title,user.name
- メリット: データを最小限に抑えることができ、パフォーマンスと帯域幅の利用効率が向上します。
- デメリット: クライアントは詳細なフィールド構造を知っている必要があります。API設計が複雑になります。
- 例:
設計判断のポイントとアンチパターン
どのリレーションシップ表現を採用するかは、APIの主な利用シナリオ、クライアントの特性、そしてパフォーマンス要件によって判断する必要があります。
- 主な利用シナリオを考慮する: そのAPIが「投稿一覧表示画面で投稿者名も一緒に表示する」ために頻繁に使われるのであれば、「埋め込み」が適しているかもしれません。「投稿者の詳細プロフィールを見る」のが主な目的であれば、「参照」+別途ユーザー詳細取得、あるいは「リンク」+リンクをたどる、といった設計が考えられます。
- クライアントの種類を考慮する: Webブラウザから利用されるSPA(Single Page Application)の場合、複数のAPIコールを非同期で行うのが容易なので「参照」や「リンク」でも問題ないことが多いです。一方、リソースが限られるIoTデバイスなどから利用される場合は、1回のコールで必要な情報を全て取得できる「埋め込み」が適しているかもしれません。
- パフォーマンスとデータ量を考慮する: レスポンスサイズが大きくなりすぎないか、関連データを取得するために不要なDBクエリが発生しないかなどを検討します。「埋め込み」は便利ですが、関連データが非常に大きい場合や、多対多の関係で多数の関連データが存在する場合には注意が必要です。
- 一貫性を保つ: API全体でリレーションシップの表現方法に一貫性を持たせることが重要です。例えば、あるリソースではユーザーを「埋め込み」で返し、別のリソースでは「参照」で返すといった一貫性のない設計は、クライアントにとってAPIの学習コストを高め、誤用の原因となります。
避けるべきアンチパターン
- 過度なネストと埋め込み: リソースのネストや埋め込みを深層まで行うと、URIやレスポンス構造が複雑になりすぎ、理解や利用が難しくなります。また、不要なデータ転送が増え、パフォーマンスにも悪影響を与えます。
- 不必要な関連データの返しすぎ: クライアントがほとんど利用しないような関連データを常に埋め込んで返すと、帯域幅の無駄遣いになります。クエリパラメータによる制御オプションを提供するなどの対策を検討してください。
- 関連リソースへのアクセス方法の欠如: リソースAがリソースBへのリレーションを持つにも関わらず、リソースAから直接的、間接的にリソースBへアクセスする手段(参照ID、リンク、フィルタリング可能なリストエンドポイントなど)が一切提供されない場合、クライアントは関連データを取得するために不便を強いられます。
- リレーションシップの表現方法に一貫性がない: 前述の通り、API全体でバラバラな表現方法を用いることは避けるべきです。
具体例:ユーザーと投稿(多対多)
次に、「投稿 (Post)」と「タグ (Tag)」という、一つの投稿に複数のタグがつき、一つのタグが複数の投稿につく「多対多」のリレーションシップを考えます。
-
URL: 特定のタグがついた投稿一覧を取得する場合。
- 例1 (ネスト的な表現):
/tags/{tag_id}/posts
- 例2 (クエリパラメータ):
/posts?tag_id={tag_id}
どちらも可能ですが、タグを起点とした操作であれば例1が、投稿リストを起点としたフィルタリングであれば例2が自然かもしれません。
- 例1 (ネスト的な表現):
-
レスポンスボディ(投稿リソース取得時):
- 参照: タグIDの配列を含める。
json { "id": "post-123", "title": "記事タイトル", "body": "...", "tag_ids": ["tag-a", "tag-b"], "created_at": "..." }
- 埋め込み: タグ情報の配列を含める。
json { "id": "post-123", "title": "記事タイトル", "body": "...", "tags": [ { "id": "tag-a", "name": "プログラミング" }, { "id": "tag-b", "name": "REST API" } ], "created_at": "..." }
- リンク: タグへのリンクの配列を含める。
json { "id": "post-123", "title": "記事タイトル", "body": "...", "created_at": "...", "links": [ { "rel": "tag", "href": "/tags/tag-a" }, { "rel": "tag", "href": "/tags/tag-b" } ] }
多対多の場合、関連リソース(タグ)の数が多くなる可能性があるため、常に全てを「埋め込み」で返すのはデータ量が増加しやすい点に注意が必要です。「参照」や「リンク」であれば、必要なタグの情報を後からまとめて取得する(例:/tags?ids=tag-a,tag-b
のようなバッチ取得エンドポイントを用意するなど)といった方法も検討できます。
- 参照: タグIDの配列を含める。
まとめ
RESTful APIにおけるリソース間のリレーションシップ表現には、URL構造、レスポンスボディ(参照、埋め込み、リンク)、そして取得方法の制御など、様々なパターンが存在します。それぞれのパターンにはメリットとデメリットがあり、APIの利用シナリオや要件に応じて最適なものを選択することが重要です。
設計においては、以下の点を意識すると良いでしょう。
- 主要な利用シーンを想定する: どのようなクライアントが、どのような目的でAPIを利用するのかを明確にする。
- パフォーマンス要件を考慮する: レスポンスサイズ、必要なAPIコール数、バックエンドの負荷などを検討する。
- 一貫性を重視する: API全体でリレーションシップの表現方法に統一感を持たせる。
- 柔軟性を持たせる: クエリパラメータなどで関連データの取得方法を制御できるオプションを提供することも有効です。
これらの点を考慮しながら、チームやプロジェクトの状況に合わせて最適なリレーションシップの表現方法を設計していくことが、保守性が高く、利用者にとって分かりやすいAPIを作る鍵となります。
本記事が、RESTful APIのデータモデリング、特にリソース間のリレーションシップ設計に悩む方々の一助となれば幸いです。