RESTful API データモデリング

RESTful APIのデータモデル変更戦略:後方互換性を保ちながら進化させる方法

Tags: RESTful API, データモデリング, API設計, バージョニング, 後方互換性, API進化

はじめに

RESTful APIを設計し、公開した後も、システムやビジネス要求の変化に伴い、APIのデータモデルを変更する必要が出てくることは少なくありません。しかし、安易な変更は、そのAPIを利用しているクライアントアプリケーションに影響を与え、互換性の問題を引き起こす可能性があります。特に、複数のクライアントが存在する場合や、外部のパートナーにAPIを提供している場合、破壊的な変更は大きな問題となります。

本記事では、RESTful APIのデータモデルを、既存のクライアントへの影響を最小限に抑えつつ進化させていくための考え方や具体的な戦略について解説します。後方互換性を維持するための原則、非破壊的な変更を実現する手法、そして後方互換性が維持できない場合のバージョニング戦略に焦点を当てます。

APIデータモデル変更の課題

APIのデータモデルを変更する際に直面する主な課題は、後方互換性の維持です。後方互換性とは、APIの新しいバージョンが、古いバージョンのクライアントアプリケーションからも引き続き利用できる性質を指します。

例えば、以下のようなユーザー情報を返すAPIエンドポイントがあったとします。

GET /users/{id}

{
  "id": 1,
  "name": "Taro Yamada",
  "email": "taro.yamada@example.com"
}

ここで、ユーザーの姓と名を分けて管理する必要が生じ、レスポンスを以下のように変更することを考えます。

{
  "id": 1,
  "first_name": "Taro",
  "last_name": "Yamada",
  "email": "taro.yamada@example.com"
}

この変更は、古いクライアントがnameフィールドに依存している場合、そのクライアントの動作を壊してしまいます。これが破壊的な変更です。

破壊的な変更は、以下のような問題を引き起こします。

これらの問題を避けるためには、可能な限り後方互換性を維持しながらAPIを進化させるか、計画的かつ適切な方法でバージョニングを導入することが重要です。

データモデル変更の基本原則:後方互換性を目指す

データモデルの変更が必要になった場合、まず「後方互換性を維持できるか」を検討します。以下の基本的な原則を理解しておくと、後方互換性を保ちやすい設計変更を進めることができます。

これらの原則からわかるように、APIの進化においては「追加」は比較的安全ですが、「削除」や「変更」は危険を伴います。

非破壊的な変更を実現するための手法

後方互換性を維持できるケースでは、以下のような手法を用いてデータモデルの変更を行います。

1. 新しいフィールドの追加

最も一般的な非破壊的変更です。新しい情報をレスポンスに追加する場合に利用します。

変更前:

{
  "id": 1,
  "name": "Taro Yamada"
}

変更後(非破壊的:メールアドレスを追加):

{
  "id": 1,
  "name": "Taro Yamada",
  "email": "taro.yamada@example.com"
}

古いクライアントはemailフィールドを無視して、idnameのみを処理するため、問題なく動作します。新しいクライアントはemailフィールドも利用できます。

2. フィールドの非推奨化 (Deprecation)

既存のフィールドの使用を避け、将来的に削除する予定であることをクライアントに知らせる手法です。非推奨化されたフィールドはすぐに削除せず、一定期間はレスポンスに含めたままにします。これにより、クライアントは新しいフィールドへの移行期間を持つことができます。

非推奨であることを伝える方法としては、ドキュメントに明記することに加えて、APIレスポンスにその情報を付加することが考えられます。例えば、HTTPヘッダーを使用する方法があります。

Deprecation: Tue, 08 Jun 2021 23:59:59 GMT Link: <https://api.example.com/docs/v2/users>; rel="alternate"

Deprecationヘッダーは、このレスポンスに含まれる何かが非推奨であり、指定された期日以降に削除される可能性があることを示します。Linkヘッダーは、代替となる新しいバージョンのドキュメントやリソースへのリンクを示すために利用できます。

3. フィールドの再構築(旧フィールドの維持と新フィールドの追加)

フィールドの名称変更やデータ型変更が必要だが、既存フィールドをすぐに削除できない場合に有効な場合があります。新しいフィールドを追加しつつ、古いフィールドも互換性のある形で維持します。これはデータ冗長性を招きますが、クライアントの移行期間を確保できます。

例:namefirst_namelast_nameに分割(過渡期)

変更前:

{
  "id": 1,
  "name": "Taro Yamada"
}

変更後(非破壊的だが冗長):

{
  "id": 1,
  "name": "Taro Yamada",       // 非推奨とする
  "first_name": "Taro",
  "last_name": "Yamada"
}

この期間、古いクライアントはnameを利用し続け、新しいクライアントはfirst_namelast_nameを利用するように移行します。十分な期間が経過した後、nameフィールドを削除することを検討できます(これは破壊的変更になるため、後述のバージョニングが必要になる場合があります)。

バージョニング戦略:後方互換性が維持できない場合

非破壊的な変更では対応できない、構造的に大きな変更や必須フィールドの削除・変更などが必要になった場合、APIのバージョニングを検討します。バージョニングは、APIの異なるバージョンを同時に提供することで、新しいクライアントは新しいバージョンを、古いクライアントは古いバージョンを引き続き利用できるようにする手法です。

バージョニングにはいくつかの一般的な方法があります。

1. URLバージョニング

最も直感的で広く使われている方法です。APIのエンドポイントURLにバージョン番号を含めます。

メリット: * 非常に分かりやすい。 * ルーティング設定が比較的容易。 * プロキシやキャッシュとの親和性が高い。

デメリット: * URLがリソースを一意に識別するというRESTの原則から見ると逸脱しているという批判がある。リソース自体はバージョンによって変わるわけではないという考え方。 * 同じリソースに対して異なるバージョンのURLが存在することになる。

2. ヘッダーバージョニング

HTTPヘッダー(通常はAcceptヘッダーやカスタムヘッダー)を使って、クライアントが要求するAPIのバージョンを指定する方法です。

メリット: * URLはリソースを一意に識別するというRESTの原則に近い。同じURLで異なる表現(バージョン)を提供できる。 * リソースのURIがバージョンに依存しないため、長期的な安定性が高い。

デメリット: * クライアント側でヘッダーを適切に設定する必要がある。ブラウザからのアクセスなどでは扱いにくい場合がある。 * キャッシュ戦略がURLベースの場合と比べて複雑になることがある。 * デバッグ時に、どのバージョンのレスポンスが返ってきたかURLからは判別できないため、ヘッダーを確認する必要がある。

3. クエリパラメータバージョニング

URLのクエリパラメータを使ってバージョンを指定する方法です。

メリット: * 実装がシンプル。 * ブラウザからも比較的簡単にテストできる。

デメリット: * URLがバージョンによって変わるため、URLバージョニングと同様にRESTの原則から逸れる側面がある。 * キャッシュキーとしてクエリパラメータも考慮する必要がある。 * クエリパラメータが増えるとURLが冗長になる可能性がある。

どのバージョニング戦略を選択するか

どのバージョニング戦略を採用するかは、APIの利用シーン、開発チームの慣習、REST原則へのこだわりなどによって判断します。最も一般的に見られるのはURLバージョニングであり、その分かりやすさから多くのプロジェクトで採用されています。しかし、よりRESTfulなアプローチを重視する場合はヘッダーバージョニングが好まれます。

重要なのは、一度採用したバージョニング戦略をチーム全体で統一し、一貫性を持って運用することです。また、どの程度の変更でバージョンを上げるべきかの基準も明確にしておく必要があります。一般的には、後方互換性のない破壊的な変更が発生する場合にバージョンを上げると考えられます。

アンチパターン

データモデルの変更やバージョニングに関して、避けるべきアンチパターンも存在します。

実践的な考慮事項

データモデルの変更やバージョニングを成功させるためには、技術的な側面に加えて、運用面での考慮も重要です。

まとめ

RESTful APIのデータモデルは、システムの成長とともに変化していくことが避けられません。しかし、その変更は計画的に、そして可能な限り後方互換性を維持しながら進めることが、APIの利用者と提供者の双方にとって重要です。

新しいフィールドの追加や非推奨化といった非破壊的な変更を最大限に活用し、後方互換性がどうしても維持できない場合にのみ、適切なバージョニング戦略を導入することを検討してください。そして、変更内容の記録、利用者への周知、古いバージョンのサポートポリシーといった運用面にも配慮することで、保守性が高く、信頼されるAPIを提供し続けることができます。

API設計は一度行えば終わりではなく、継続的な改善が必要です。データモデルの進化を恐れず、適切に対応していくスキルは、長期的に安定したシステムを構築する上で欠かせないものと言えるでしょう。