RESTful API データモデリング

RESTful API Gateway/BFFにおけるデータモデリング:複数サービスデータの集約と変換

Tags: API Gateway, BFF, データモデリング, マイクロサービス, 集約, 変換

はじめに

現代のウェブアプリケーション開発において、バックエンドシステムはマイクロサービスアーキテクチャを採用するケースが増えています。これにより、各サービスは独立して開発・デプロイできるようになる一方で、クライアント(フロントエンドやモバイルアプリ)は複数のサービスと連携する必要が生じます。このような状況で、クライアントとバックエンドサービスの間に位置するAPI GatewayやBFF(Backend For Frontend)パターンが重要になります。

API GatewayやBFFは、クライアントからのリクエストを受け付け、適切なバックエンドサービスにルーティングしたり、複数のバックエンドサービスからのレスポンスを集約・変換してクライアントに返したりする役割を担います。この層でのデータモデリングは、効率的なデータ取得、クライアントの要求に合わせた構造の提供、そしてバックエンドサービスの変更からクライアントを分離するために不可欠です。

本記事では、API GatewayやBFFにおけるRESTful APIのデータモデリングに焦点を当て、なぜこの層でのモデリングが必要なのか、具体的な設計パターン、そして考慮すべき点について解説します。

なぜAPI Gateway/BFFでデータモデリングが必要か

マイクロサービスアーキテクチャにおいて、クライアントが直接多数のバックエンドサービスと通信することは、いくつかの課題を生み出します。

  1. クライアントの複雑性増大: ある画面表示のために複数のサービスからデータを取得する必要がある場合、クライアント側で並列リクエストやデータの結合処理を行う必要が生じ、クライアントコードが複雑になります。
  2. 過剰なデータ取得: バックエンドサービスが汎用的なAPIを提供している場合、クライアントが必要とする以上のデータがレスポンスに含まれる可能性があります。これはネットワーク帯域の無駄遣いや、クライアント側の処理負荷増大につながります。
  3. バックエンドサービスへの依存: クライアントが直接バックエンドサービスと通信していると、バックエンドサービスのAPI仕様変更が直接クライアントに影響を与え、メンテナンスコストが増大します。
  4. サービス間の連携: サービス間の認証情報の伝搬や、共通のログ収集といった横断的な関心を処理する場所が必要になります。

API GatewayやBFFは、これらの課題を解決するために導入されます。特にデータモデリングの観点からは、以下の目的を達成するために重要です。

API Gateway/BFFにおけるデータモデリングの考え方:クライアント指向

API Gateway/BFF層でのデータモデリングの最も重要な考え方は、「クライアント指向」であることです。バックエンドサービスのデータモデルに引きずられるのではなく、そのAPIを利用するクライアントが何を必要としているか、どのような構造でデータを受け取りたいかを起点に設計します。

これは、バックエンドの各サービスがそれぞれのドメインにおける最適なデータモデルを持っているのに対し、Gateway/BFFは「特定のクライアント(または特定のユースケース群)」にとっての最適なデータビューを提供する、という役割の違いに基づいています。

例えば、ECサイトにおいて、商品詳細ページには「商品情報」「在庫情報」「レビュー情報」「関連商品情報」などが表示されるとします。これらがそれぞれ異なるバックエンドサービス(ProductService, InventoryService, ReviewService, RecommendationService)で管理されている場合、クライアントが直接これらのサービス全てに問い合わせるのではなく、Gateway/BFFに1度のリクエストで必要な情報をまとめて取得できるようなエンドポイントを設けることが考えられます。

Gateway/BFFはクライアントからのリクエストを受けて、内部的に各バックエンドサービスに問い合わせ、それらのレスポンスデータを結合・変換し、商品詳細ページに最適な単一のレスポンスとして返します。このレスポンスのデータ構造こそが、Gateway/BFF層で設計すべきデータモデルです。

具体的な設計パターン

API Gateway/BFFにおけるデータモデリングでよく利用されるパターンは、主に「データ集約」と「データ変換」です。

1. データ集約 (Data Aggregation)

複数のバックエンドサービスに分散している情報を1つのAPIレスポンスにまとめるパターンです。クライアントは単一のエンドポイントにリクエストするだけで、関連する複数のデータをまとめて取得できます。

例: あるユーザーのプロフィール情報と、そのユーザーが最近投稿した記事リストを表示したい場合。

{
  "user": {
    "id": "123",
    "username": "kenta.sato",
    "displayName": "佐藤 健太",
    "avatarUrl": "..."
    // ... 他のユーザー情報
  },
  "recentArticles": [
    {
      "id": "a001",
      "title": "RESTful API設計入門",
      "publishedAt": "2023-10-01T10:00:00Z"
      // ... 記事リストに必要な情報の一部
    },
    {
      "id": "a002",
      "title": "データモデリングの基礎",
      "publishedAt": "2023-11-15T14:30:00Z"
      // ...
    }
    // ...
  ]
}

この例では、ユーザー情報と記事リストという異なる種類の情報が、クライアントの「プロフィール画面表示」というユースケースに合わせて1つのリソースとして集約されています。/profile-view/{userId}というエンドポイントは、バックエンドの物理的なリソース構造ではなく、クライアントが必要とする「データのかたまり」を表現しています。

2. データ変換 (Data Transformation)

バックエンドサービスから取得したデータの構造、名称、データ型などを、クライアントが必要とする形式に変換するパターンです。バックエンドのデータモデルがクライアントの要求と異なる場合に有用です。

例: バックエンドの予約サービスが複雑なネスト構造で予約情報を返すが、クライアントは表示用にシンプルでフラットな構造を求めている場合。

{
  "bookingDetails": {
    "bookingId": "B12345",
    "status": "CONFIRMED",
    "customerInfo": {
      "customerId": "C987",
      "name": "山田 太郎",
      "contact": {
        "email": "yamada.t@example.com",
        "phone": "090-xxxx-xxxx"
      }
    },
    "reservationItems": [
      {
        "itemId": "R001",
        "serviceType": "ROOM",
        "details": {
          "roomNumber": "301",
          "checkIn": "2024-01-20",
          "checkOut": "2024-01-22"
        }
      }
    ]
  }
}
{
  "id": "B12345",
  "status": "予約済み",
  "customerName": "山田 太郎",
  "customerEmail": "yamada.t@example.com",
  "checkInDate": "2024-01-20",
  "checkOutDate": "2024-01-22",
  "itemCount": 1
}

この例では、 - キー名の変更 (bookingId -> id, customerInfo.name -> customerNameなど) - ネスト構造のフラット化 - データの型変換や表現の変更 (status "CONFIRMED" -> "予約済み") - 一部の情報の省略や集計 (reservationItems配列の要素数 -> itemCount) などが行われています。

データ変換は、バックエンドのデータモデルの都合がクライアントに漏れ出るのを防ぎ、クライアントが必要とする情報だけを、使いやすい形で提供することを可能にします。

アンチパターン

Gateway/BFF層でのデータモデリングにおいても、避けるべきアンチパターンが存在します。

  1. 安易なパススルー: Gateway/BFFが単なるリクエストルーティング機能にとどまり、バックエンドサービスが返すレスポンスボディをそのままクライアントに渡してしまうケースです。これはGateway/BFFのメリット(クライアント指向性、バックエンド分離)を放棄することになり、前述の「なぜGateway/BFFが必要か」で挙げた課題がそのまま残ってしまいます。
  2. 過度な集約による肥大化: あまりにも多くの情報を1つのAPIエンドポイントに集約しすぎて、レスポンスボディが巨大になる、あるいは関係の薄い情報まで詰め込んでしまうケースです。これは、APIの用途を不明確にし、クライアントが必要な情報だけを取得しづらくさせ、パフォーマンスにも悪影響を与えます。集約するデータは、特定のクライアントの特定のユースケースにとって密接に関連するものに限定すべきです。
  3. バックエンドデータモデルへの依存: Gateway/BFFのデータモデルが、特定のバックエンドサービスのデータモデルと強く結びついてしまっているケースです。バックエンドサービスのAPI仕様変更がGateway/BFFのAPI仕様変更に直結してしまい、クライアントへの影響を遮断するという目的が達成できません。Gateway/BFFのデータモデルは、バックエンドの都合ではなく、クライアントの要求に基づき独立して設計されるべきです。

実践的な考慮事項

Gateway/BFF層でのデータモデリングを行う上で、いくつかの実践的な考慮事項があります。

まとめ

API GatewayやBFFは、マイクロサービスアーキテクチャにおけるクライアント連携の課題を解決するために有効な手段であり、その中核をなすのが「クライアント指向のデータモデリング」です。複数のバックエンドサービスから取得したデータを、クライアントのニーズに合わせて集約・変換することで、クライアント開発の効率化、パフォーマンス向上、そしてバックエンド変更からの分離を実現できます。

効果的なGateway/BFFのデータモデリングのためには、単なるバックエンドAPIのプロキシとしてではなく、クライアントが必要とする「データビュー」を提供するレイヤーとして捉える視点が重要です。本記事で解説したデータ集約・変換のパターンやアンチパターン、考慮事項が、皆さんのGateway/BFF設計の一助となれば幸いです。