RESTful API データモデリング

ポリモーフィックなデータを扱うRESTful APIのデータモデリング:型を識別し、適切に表現する設計

Tags: RESTful API, データモデリング, API設計, ポリモーフィズム, JSON

はじめに

RESTful APIを設計する際、単一のリソースタイプや固定されたデータ構造を扱うことは比較的シンプルです。しかし、システムによっては、一つのフィールドが複数の異なるデータ型を取りうる場合や、コレクションの中に性質の異なるオブジェクトが混在する場合があります。このような「ポリモーフィックな(多形的な)データ」をAPIでどのように表現するかは、データモデリングにおける一つの大きな課題となります。

ポリモーフィックなデータを適切にモデリングしないと、APIの利用側(クライアント)はデータの型を安全に判断できず、エラーが発生しやすくなります。また、APIの仕様が不明瞭になり、メンテナンスコストが増大する原因にもなります。

本記事では、RESTful APIでポリモーフィックなデータを扱う際の設計課題を明らかにし、型を安全に識別し、明確かつ保守性の高いデータ構造を設計するための具体的なパターンと考え方を解説します。これらの知識を習得することで、複雑なデータ構造を持つAPI設計にも自信を持って取り組めるようになるでしょう。

ポリモーフィックデータとは?なぜAPIで扱うのが難しい?

ポリモーフィックなデータとは、論理的には一つの概念やリストに属しながらも、その具体的な構造がデータによって異なるものを指します。プログラミング言語のオブジェクト指向における継承関係にあるオブジェクトのリストや、Union型をイメージすると分かりやすいかもしれません。

具体的な例をいくつか挙げます。

これらのデータをRESTful APIのレスポンスとして返す場合、以下のような設計上の課題が生じます。

  1. クライアントでの型判断: レスポンスを受け取ったクライアント(ウェブブラウザ、モバイルアプリ、他のサービスなど)が、個々のデータ要素が具体的にどの型であるかをどうやって安全かつ効率的に判断するか。
  2. データパースと処理: 型が特定できた後、クライアントは型に応じた正しい構造でデータをパースし、その型に特有のプロパティにアクセスする必要があります。この処理をどのように実装するか。
  3. APIスキーマ定義: OpenAPI SpecificationなどのAPIスキーマ定義言語で、このような可変的な構造を正確かつ網羅的に表現し、ドキュメント化する方法。
  4. 拡張性: 将来、新しいデータ型(例: 新しい図形タイプ、新しいアクションタイプ)が追加された場合に、APIの設計をどのように変更し、後方互換性を保つか。

これらの課題を解決するために、データモデリングの段階で、ポリモーフィックなデータの表現方法を明確に定義する必要があります。

データモデリングの基本戦略:型を識別する情報の付加

ポリモーフィックなデータをAPIで扱うための基本的な考え方は、「データ自体に、それがどの型であるかを識別できる情報を含める」ことです。クライアントはこの識別子を見て、そのデータが具体的にどの型であるかを判断し、適切な処理を行うことができます。

この識別子を付加する方法には、主に以下の2つのパターンが考えられます。

  1. 識別子フィールドによる型判定
  2. ラッパーオブジェクトによる型判定

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1. 識別子フィールドによる型判定

この手法では、ポリモーフィックなデータ構造の中に、そのデータの具体的な型を示す専用のフィールドを追加します。このフィールドの名前は、例えば type, kind, dataType など、型を示すことが明確なものを選びます。フィールドの値には、各型を一意に識別できる文字列(例: "circle", "rectangle", "login_success", "purchase")や数値IDなどを使用します。

例として、前述の描画オブジェクトのリストをこの手法で表現してみましょう。リストの各要素には、共通のフィールド(id, x, y, color)と、その型に特有のフィールド(円ならradius、四角形ならwidth, height)が含まれます。そして、どの型であるかを示すtypeフィールドが追加されます。

[
  {
    "type": "circle",
    "id": "c1",
    "x": 10,
    "y": 20,
    "color": "#FF0000",
    "radius": 5
  },
  {
    "type": "rectangle",
    "id": "r1",
    "x": 30,
    "y": 40,
    "color": "#00FF00",
    "width": 15,
    "height": 25
  },
  {
    "type": "textbox",
    "id": "t1",
    "x": 50,
    "y": 60,
    "color": "#000000",
    "text": "Hello API"
  }
]

この手法の利点:

この手法の欠点:

2. ラッパーオブジェクトによる型判定

この手法では、ポリモーフィックなデータ構造全体を、その具体的な型を示す名前のフィールドを持つラッパーオブジェクトで包みます。つまり、リストの各要素は、必ずいずれか一つのフィールド(そのフィールド名が型を示す)だけを持つオブジェクトになります。

例として、同じ描画オブジェクトのリストをこの手法で表現してみましょう。リストの各要素は、circlerectangletextboxのいずれかのフィールドを持ち、そのフィールドの値として具体的なオブジェクトデータが格納されます。

[
  {
    "circle": {
      "id": "c1",
      "x": 10,
      "y": 20,
      "color": "#FF0000",
      "radius": 5
    }
  },
  {
    "rectangle": {
      "id": "r1",
      "x": 30,
      "y": 40,
      "color": "#00FF00",
      "width": 15,
      "height": 25
    }
  },
  {
    "textbox": {
      "id": "t1",
      "x": 50,
      "y": 60,
      "color": "#000000",
      "text": "Hello API"
    }
  }
]

この手法の利点:

この手法の欠点:

どちらの手法を選ぶべきか?

どちらの手法もポリモーフィックデータを扱う有効な手段であり、どちらが優れているという絶対的な答えはありません。扱うデータの特性、型の数、APIを利用するクライアントの種類や実装容易性などを考慮して選択することが重要です。

重要なのは、採用した手法をAPI全体で一貫させ、明確にドキュメント化することです。特に、識別子フィールドを使う場合は、そのフィールド名と各型の対応関係を厳密に定義し、API利用者に明確に伝える必要があります。

アンチパターンに注意

ポリモーフィックなデータを扱うAPI設計における避けるべきアンチパターンもいくつか存在します。

スキーマ定義と言語バインディング

OpenAPI SpecificationなどのAPIスキーマ定義は、ポリモーフィックデータの構造を明確に定義する上で非常に強力なツールです。

これらのスキーマ定義を適切に行うことで、各種プログラミング言語用のAPIクライアントライブラリを自動生成するツールが、型安全なコードを生成しやすくなります。これはAPI利用者にとって大きなメリットとなります。

バージョン管理への影響

ポリモーフィックなデータを持つAPIにおいて、新しい型を追加することは比較的よくある変更です。この場合、既存のクライアントとの後方互換性を保つことが重要です。

まとめ

RESTful APIでポリモーフィックなデータを扱うことは、システムの柔軟性を高める上で重要ですが、適切なデータモデリングを行わないと、APIの利用性や保守性を著しく損なう可能性があります。

本記事で解説したように、ポリモーフィックデータを扱うための基本的な考え方は、データ自体に型を識別するための情報を含めることです。そのための主要なパターンとして、「識別子フィールドによる型判定」と「ラッパーオブジェクトによる型判定」があります。

どちらの手法を選ぶかは、データの特性や要件に応じて慎重に検討する必要があります。また、型を識別する情報を含めない、不規則なフィールド名を使うといったアンチパターンは避けるべきです。

適切なデータモデリング、APIスキーマでの明確な定義、そしてバージョン管理への配慮を行うことで、ポリモーフィックなデータを持つAPIも安全かつ拡張性の高いものにすることができます。これらの知識を日々のAPI設計に活かしていただければ幸いです。