UI要件に基づくRESTful APIデータモデリング:画面表示に必要なデータを過不足なく提供する設計
はじめに
RESTful APIを設計する際、多くのケースでそのAPIはウェブやモバイルなどのユーザーインターフェース(UI)から利用されます。UI開発者は、特定の画面に表示するために様々な種類のデータを必要とします。しかし、APIのリソース構造が必ずしもUIの必要とするデータの形と一致するとは限りません。
例えば、「ユーザー詳細画面」を考えた場合、単にユーザーの基本情報だけでなく、そのユーザーの最新の注文履歴や、関連する設定情報なども同じ画面に表示したいという要求があるかもしれません。APIが /users/{id}
、/orders?user_id={id}
、/settings?user_id={id}
のように個別のリソースとして提供されている場合、UI側はこれらのエンドポイントに複数回アクセスし、取得したデータを画面上で組み合わせる必要があります。これは、ネットワーク負荷の増加、UI側のデータ結合ロジックの複雑化といった課題につながることがあります。
逆に、APIが /users/{id}
のレスポンスとして、ユーザーに関連する全ての情報(過去の全注文履歴、詳細な設定値など)を含んでしまうと、多くの画面では不要な情報まで取得することになり、レスポンスサイズの肥大化やパフォーマンス低下を引き起こします。
このように、UIが必要とする「情報」とAPIが提供する「リソース」の間に生じるミスマッチをどのように解消し、UIが必要とするデータを効率的かつ過不足なく提供できるAPIを設計するかが、データモデリングにおいて重要な課題となります。
この記事では、UI要件に基づいてRESTful APIのデータモデリングを行う際の考え方と、具体的な設計パターンについて解説します。
UIに必要なデータとAPIリソースの関係性
理想的には、UIの各要素や画面が必要とするデータのまとまりが、APIの提供するリソースの粒度と一致していることが望まれます。例えば、「ユーザーのプロフィール表示」というUI要素があれば、対応するAPIリソース /users/{id}
がそのプロフィール表示に必要なデータだけを提供する、という形です。
しかし、現実世界のUIは複雑です。
- 複数のリソースの組み合わせ: 1つの画面に、異なる種類の複数のリソースの情報(例: ユーザー情報と最新ニュース)を表示したい。
- リソースの部分的な情報: リソース全体の詳細ではなく、一部のフィールド(例: 商品リストで商品名と価格だけ)が必要。
- 関連リソースの参照: あるリソースの情報に加えて、それに関連する別のリソースの情報(例: 注文情報に紐づく商品名)も表示したい。
- 集計や計算結果: 生データではなく、集計値や計算された値(例: ユーザーの未読通知数、カート内の合計金額)が必要。
これらのUI要件に対して、既存の汎用的なリソース設計だけでは対応が難しくなる場合があります。
UI要件を解決するためのデータモデリング戦略
UIが必要とするデータの形に合わせてAPIを設計するための主要な戦略をいくつか紹介します。これらの戦略は排他的ではなく、APIの性質やUIの要件に応じて組み合わせて利用できます。
戦略1: 既存リソースの活用と調整
既存の汎用的なリソース設計をベースとしつつ、レスポンスの内容をUIの要求に合わせて調整するアプローチです。
- 詳細度制御(Field Selection/Partial Response):
クライアントがレスポンスに含めるフィールドを指定できるようにします。これにより、不要なフィールドの送信を抑制し、レスポンスサイズを削減できます。
- 例:
/users/{id}?fields=id,name,email
- UI側は必要なフィールドを指定してリクエストします。
- 例:
- 関連リソースの埋め込み(Expansion/Embedding):
メインのリソースに関連するリソースのデータを、メインリソースのレスポンス内に含めるようにします。これにより、関連データの取得のために別途APIコールを行う必要がなくなります。
- 例:
/orders/{id}?_embed=customer,items
customer
リソースとitems
リソース(注文に含まれる商品リスト)のデータが、注文リソースのレスポンス内にネストされて含まれます。
- 例:
- フィルタリング、ソート、ページネーション:
リスト表示など、複数のリソースを取得する場合に、UIが必要とするデータの範囲や順序、件数を制御します。
- 例:
/products?category=electronics&sort=price_asc&limit=10&offset=20
- これにより、UIが必要とする特定条件の商品リストを効率的に取得できます。
- 例:
メリット: * APIリソースの汎用性を保つことができます。 * クライアント(UI)側がある程度の柔軟性を持ってデータを取得できます。
デメリット: * UIが非常に複雑なデータ構造や、複数の非関連リソースの組み合わせを必要とする場合、Field SelectionやExpansionだけでは対応しきれないことがあります。 * クライアント側でどのフィールドや関連リソースが必要か判断し、リクエストパラメータを組み立てる必要があります。
戦略2: 集約リソース(Composite Resource)の設計
複数の既存リソースから必要な情報を集約し、新しい単一のリソースとして提供するアプローチです。これは、特定のUI画面や機能が、常に同じ複数の情報を必要とする場合に有効です。
前述の「ユーザー詳細画面」の例では、ユーザー情報、最新の注文履歴、設定情報を集約した /users/{id}/summary
のようなリソースを設計することが考えられます。
レスポンス構造例 (GET /users/{id}/summary
)
{
"id": 123,
"name": "ユーザー名",
"email": "user@example.com",
"createdAt": "2023-01-01T10:00:00Z",
// ... その他のユーザー基本情報
"latestOrders": [ // 最新の注文履歴リスト
{
"orderId": 1001,
"orderDate": "2024-07-25T15:30:00Z",
"totalAmount": 5000,
// ... 注文リスト表示に必要な情報
},
{
"orderId": 1002,
"orderDate": "2024-07-26T09:00:00Z",
"totalAmount": 7500,
// ...
}
// ... 必要件数分
],
"settings": { // 関連する設定情報
"notificationEnabled": true,
"language": "ja",
// ... 画面表示に必要な設定値
}
}
この例では、ユーザー基本情報に加え、latestOrders
というキーで最新の注文リスト(リスト表示に必要な最小限の情報のみ)、settings
というキーで設定情報が含まれています。これらの情報は、本来別々のリソース(User
、Order
、Setting
)として存在するものですが、UIの要件に合わせて一つのレスポンスに集約されています。
集約リソースのURI設計としては、メインとなるリソースの下にネストさせる (/users/{id}/summary
) か、集合名詞としてトップレベルに置く (/user-summaries/{id}
) などが考えられます。文脈や他のリソースとの関連性に応じて決定します。
メリット: * UIが必要とするデータを1回のAPIコールで取得できるため、ネットワーク効率が向上します。 * UI側でのデータ結合ロジックがシンプルになります。 * 特定のUI画面に最適化されたデータ構造を提供できます。
デメリット: * APIリソースの数が増える可能性があります。 * 集約ロジックをバックエンドで実装する必要があり、開発・保守コストがかかる場合があります。 * 集約リソースは特定のUIに強く依存するため、再利用性が低い場合があります。
戦略3: UI特化型エンドポイント(BFF的な考え方)
特定のUI画面や機能のためだけに設計された、UIのデータ要求に完全に一致するエンドポイントを作成するアプローチです。これは、BFF(Backend For Frontend)パターンのAPI設計に近い考え方です。集約リソースよりもさらに特定のUIに特化しており、必要な情報を様々なバックエンドサービスから取得・加工して提供します。
例: /ui/dashboard/summary
エンドポイントが、ログインユーザーのダッシュボード画面に必要な全てのデータ(ユーザー名、未読通知数、最新アクティビティ、要対応タスク数など)を提供します。
レスポンス構造例 (GET /ui/dashboard/summary
)
{
"userName": "ユーザー名",
"unreadNotificationsCount": 5,
"latestActivities": [
{ /* アクティビティ情報 */ },
// ...
],
"pendingTasksCount": 2
}
この例では、レスポンス構造が完全にダッシュボード画面の構成に最適化されており、元のリソース構造(User, Notification, Activity, Taskなど)からは独立しています。
URI設計としては、/ui/
のようなプレフィックスを付けて、これがUIに特化したエンドポイントであることを明示することが多いです。
メリット: * 特定のUI画面に最も最適化されたデータ構造と性能を提供できます。 * バックエンドの汎用APIに影響を与えずに、UIの要件変更に迅速に対応できます。
デメリット: * UI画面ごとにエンドポイントが増える傾向があり、API全体の保守管理が複雑になる可能性があります。 * バックエンドにUI依存のロジックが入り込むため、バックエンドの責務が曖昧になる可能性があります。 * 複数のUIクライアント(ウェブ、モバイルなど)がある場合、それぞれに特化したエンドポイントが必要になる場合があります。
各戦略の適用判断
どの戦略を選択すべきかは、以下の要因を考慮して判断します。
- UIの安定性: そのUI画面や機能の要件が頻繁に変更されるか?
- 変更が多い場合は、UI特化型エンドポイントの方がバックエンド汎用APIへの影響を抑えられます。
- 変更が少ない、または汎用的な情報の組み合わせであれば、集約リソースや既存リソースの調整で十分かもしれません。
- APIの再利用性要求: そのAPIエンドポイントを他のUIやクライアントからも利用する可能性があるか?
- 再利用性が高い場合は、既存リソースの調整が最も適しています。
- 特定のUIだけが利用する場合は、集約リソースやUI特化型エンドポイントも選択肢に入ります。
- 開発チーム体制: フロントエンドとバックエンドの開発体制はどうなっているか?
- フロントエンドチームがバックエンドへのアクセスをよりコントロールしたい場合や、バックエンドチームがコアロジックに集中したい場合は、BFFとしてUI特化エンドポイントを設けるパターンが有効な場合があります。
- 性能要件: そのUI画面で表示するデータの取得に特に厳しい性能要件があるか?
- 性能が最優先される場合は、UIに完全に最適化されたデータ構造と取得ロジックを持つUI特化型エンドポイントが有利です。
多くの場合、まずは既存の汎用的なリソース設計をベースとし、Field SelectionやExpansionなどの調整機能で対応を試みます。それで効率や構造に課題が出てきた場合に、集約リソースやUI特化型エンドポイントの導入を検討するという段階的なアプローチが現実的です。
具体的なデータ構造の設計例(再掲)
改めて、「ユーザー詳細画面」でユーザー基本情報、最新注文リスト、設定情報が必要なケースを、異なる戦略におけるレスポンス構造で比較します。
前提となるリソース:
* GET /users/{id}
: ユーザー詳細(全フィールド)
* GET /orders?user_id={id}
: 特定ユーザーの全注文リスト
* GET /settings?user_id={id}
: 特定ユーザーの全設定リスト
戦略1: 既存リソースを複数回コール + Field Selection/Pagination
UI側で /users/{id}?fields=id,name,email
、/orders?user_id={id}&limit=5&sort=orderDate_desc&fields=orderId,orderDate,totalAmount
、/settings?user_id={id}?fields=notificationEnabled,language
をそれぞれ呼び出し、UI側でデータを組み合わせる。
メリット: バックエンドのAPIはシンプルで汎用的。UI側は必要な情報のみ取得できる。 デメリット: UI側は複数回のAPIコールとデータ結合ロジックが必要。ネットワーク遅延の影響を受けやすい。
戦略2: 集約リソース /users/{id}/summary
{
"id": 123,
"name": "ユーザー名",
"email": "user@example.com",
"latestOrders": [
{ "orderId": 1001, "orderDate": "...", "totalAmount": 5000 },
{ "orderId": 1002, "orderDate": "...", "totalAmount": 7500 }
],
"settings": {
"notificationEnabled": true,
"language": "ja"
}
}
メリット: 1回のAPIコールで必要なデータが取得できる。UI側はデータ結合が容易。
デメリット: /users/{id}/summary
リソースは汎用性が低い可能性。集約ロジックの実装が必要。
戦略3: UI特化型エンドポイント /ui/users/{id}/profile-view-data
{
"profile": {
"id": 123,
"name": "ユーザー名",
"email": "user@example.com"
},
"recentOrders": [
{ "id": 1001, "date": "...", "total": 5000 }, // キー名もUIに合わせて変更可能
{ "id": 1002, "date": "...", "total": 7500 }
],
"userSettings": {
"notificationsEnabled": true,
"preferredLanguage": "ja"
}
}
メリット: UI画面のデータ構造に完全に一致させることができ、UI開発が最もスムーズになる可能性。性能最適化もしやすい。 デメリット: UI画面ごとにエンドポイントが必要になりやすい。API全体の管理が複雑化する可能性。
このように、同じUI要件を満たすために、データモデリングの戦略によってAPIの構造が大きく変わることが分かります。重要なのは、UIの要求を理解し、APIの再利用性、開発・保守コスト、性能要件などを総合的に考慮して最適なデータ構造を選択することです。
データモデリングにおけるその他の考慮事項
UI要件に基づくデータモデリングを行う際には、以下の点も考慮に入れると良いでしょう。
- バージョン管理: UIの要件変更は頻繁に起こりうるため、APIのデータ構造変更も発生しやすいです。後方互換性を保ちながら安全にAPIをバージョンアップするための戦略(URIバージョン、Headerバージョンなど)をあらかじめ検討しておくことが重要です。
- キャッシュ戦略: UIで表示されるデータは、多くの場合キャッシュが有効です。APIレスポンスのキャッシュヘッダー(
Cache-Control
,ETag
など)を適切に設定することで、UIの表示性能を向上させることができます。集約リソースやUI特化エンドポイントは、構成要素となるデータの一部が更新されただけでもキャッシュが無効になる可能性があるため、注意が必要です。 - エラーハンドリング: 集約リソースやUI特化エンドポイントの場合、構成要素となるデータの一部(例えば、ユーザー情報は取得できたが、最新注文履歴の取得に失敗した)が取得できなかった場合に、どのようにエラーを表現するかを設計する必要があります。全体をエラーとするか、部分的なエラー情報を含めるかなどを検討します。
- セキュリティ: UIに表示される情報には、アクセス権限によって表示・非表示を切り替える必要があるものや、そもそもUIに渡すべきではない機密情報が含まれる場合があります。データモデリングの段階で、セキュリティ要件に基づき、どの情報をレスポンスに含めるか、どのようにアクセス制御を行うかを考慮します。
まとめ
UI要件に基づいたRESTful APIのデータモデリングは、UI開発効率とAPIの保守性・性能のバランスを取る上で非常に重要です。UIが必要とするデータを過不足なく、かつ効率的に提供するために、既存リソースの調整、集約リソースの設計、UI特化型エンドポイントといった様々な戦略が存在します。
これらの戦略にはそれぞれメリット・デメリットがあり、UIの特性、APIの汎用性、開発体制などを考慮して最適なアプローチを選択する必要があります。単一の正解があるわけではなく、プロジェクトの状況に合わせて柔軟に判断していくことが求められます。
API設計者として、UI開発チームと密に連携し、UIが本当に必要としているデータを深く理解することが、より良いデータモデリングへの第一歩となります。この記事で紹介した考え方やパターンが、皆様のAPI設計の一助となれば幸いです。